フリーのノベルゲーにハマってた頃の話
フリーのサウンドビジュアルノベルゲーム、いわゆるノベルゲーにハマっていた時があった。リアルにもネット上に友達はおらず孤独だったあの頃で、懐かしみ合う相手もいないので、自分語りして懐古録を残してみる。
ノベルゲーというジャンルを知ったきっかけは何だったか。思い返せば『ひぐらしのなく頃に』が最初だったかもしれない。あるきっかけで初めて深夜アニメを観て、原作が同人ノベルゲーであることを知った。鬼隠し編は無料で配布されていて、テキストの方がアニメより死ぬほど怖かった記憶がある。
なぜそこから商業作品に行かなかったのかというと、当時お金なかったし、何かのためにお金を稼ごうという気概もなかった。ひぐらしのアニメは好きだったのだけど、ゲームは怖すぎてそのあとプレイすることもなかった。
そして、同級生がキラキラした青春を謳歌する中、薄暗い部屋で一人ノートPCとにらめっこしていた私は、鬱屈した感情を持て余し、恋愛アドベンチャーゲームにたどり着く。
『しぇいむ☆おん』はVIPのスレ発祥の恋愛ADV。別に本スレを見守っていたわけではないが、5人のヒロインがみんなツンデレという謳い文句が刺さったので手に取った。シナリオは、当時の2chのノリとライターがヒロインごとに違うこともあって、なかなか癖のある仕上がり。特に美幸ちゃんルートは当時の感性では理解不能だった。
そんな中でお気に入りだったのは、このゲームのメインヒロインといえる早苗ちゃんルートで、人当たりの良い彼女が最後の最後まで固い心の壁を崩してくれない様にのめり込んだ。
だが、このゲームが良いなと思ったところは、全面にあふれる制作チームの作品への愛だった。歌入りのオープニング映像や結構な量のサブシナリオといった作り込みもそうなのだけど、クリア後のおまけシナリオに加えて、開発者インタビューのHTMLファイルがzipで生成されたのには度肝を抜かれた。
商業作品ではありえないチープさを残しつつ、商業作品では力を入れないだろうところに全力を注いでしまう無骨で粗削りなところに、なんとも言えないインディーズならではの熱量と魅力を感じ、フリーのノベルゲームというものに引き込まれていく。とはいえ、やっぱり面白いものを手っ取り早くプレイしたいと思うのが人情である。只で遊ばせてもらっている身分でおこがましいにもほどがあるのだけれど。
そこでノベルゲームのレビューサイトを参考に次にプレイするものをdigっていた。
NaGISAさんという自身でもノベルゲームをリリースしている方が、フリーのノベルゲームに限ってひたすらプレイし、レビューしているサイト。
現在はブログに移行して続けられているようで、久しぶりに見たらレビュー速度がえげつないペースになっていてビビる。
当時はフリーのノベルゲーなんて作る労力のわりにプレイ人口が少ないので、Vectorかふりーむを眺めれば大体それが全部という(勝手な)イメージだった。現在はTyranoなんかの登場のおかげで、ブラウザやスマホでもプレイ可能になり、ノベルゲームコレクションのようなプラットフォームやTyranoGameFesのようなゲームコンテストなど、ノベルゲーだけで一大コンテンツと化している。ノベルゲーを取り上げることは賛否あると思うが、ゲーム実況の文化もこれを後押ししてそう。あとサムネを眺めると最近のは絵のクオリティが上がりすぎ。
ともかく、このNaGISA netの推薦や準推薦がついてるやつをちょこちょこプレイしていたのが、フリーのノベルゲーにハマってた時期だった。
以降は、好きな or 好きだった作品をうろおぼえで紹介。
『本気で恋愛ゲー作らないか』
これもVIP発のノベルゲーだが、これはほぼ一本道。個人的に一本道の方が好きだったりする。なのであんまりゲーム性のあるものはプレイしなかった。それがゲームなのかどうかは諸説あるが。
冴えカノのようなAVG制作モノで、チームでの創作活動で起こりがちトラブル・いざこざを上手にオブラートに包んでドラマチックに表現している。
チーム制作をしたことのない自分にとっては、架空の達成感を味わえるコンテンツだった。実際の制作過程はスタッフの失踪・ボツ案の山ともっと泥臭いようで、その片鱗をwikiで味わえる。
http://www36.atwiki.jp/honki_vip/
これをきっかけに、エターナらずにこの世にリリースされているだけで作品は素晴らしいのだと思うようになった。
『子守唄を貴方に…』
ノベルゲーム制作サークルの月うさぎプロジェクトの初作品。高校の無線部というノスタルジーな部活を舞台にしていて、アマチュア無線でのコミュニケーションの描写が魅力的。
ハローCQで始まる無線文化をこれで初めて知ったのだけど、今思えば現代で言うClubhouse的なものだったのかもと思う。でも本筋はアマチュア無線ではなく、ヒロインの小貫紗奈ちゃんの抱える問題の解決がテーマ。
秀逸なラストシーンは涙なしには見られないし、死ぬまでにまたこんな気持ちになれるストーリーに出会えるのだろうかと思う。
『茄子と秋刀魚の美味しい世界』
早稲田大学の学生サークル MIS.W の作品。略称は『とのしい』。『化物語』の戦場ヶ原ひたぎのような自分好みの黒髪ロング毒舌ヒロインが出てくる。楽しいと死にたがる自傷癖のあるやばいメンヘラヒロインでもある。
サブカル・ミステリネタがちりばめられていて、教養(?)のない自分にはほとんどわからなかったが、趣味全開な雰囲気がたまらない。「後期クイーン問題」という厨二心くすぐられるミステリ用語を初めて知ったのはこの作品で、最後のオチにも関わっている。
MIS.W の作品は『πとナブラの正しい料理法』(通称とのしい2、シリーズものではない)も好きで、理系を志したのはこれが影響、かというとそういうわけでもない。
小倉ハムスターのCDシリーズ
やばいヒロインというとサークル「小倉ハムスター」のCDシリーズにでてくる、ライムちゃんを思い出す。
miyaco*さんの描くかわいいライムちゃんは小動物好きなのだけど、好きすぎて解体してしまうタイプの女の子。そんなライムちゃんはチート級魔法少女(?)になって主人公の前に立ちふさがる、というエログロ狂気ストーリー。
厨二的、といえばそれまでなのかもしれないが、黒世 改さんの書くシナリオはカオスなのに引き込まれる、サスペンスなのにハートフル、という感じ。こんなダークなストーリーは今の自分だったら手に取らないだろうなと思うと、月日の流れと自身のメンタルの変化を感じてエモくなる。
なお、完結していないので続きを永遠に待っている状況。
『ビューティフルパフォーマー』
『ビューティフルパフォーマー』はフリーゲームにしてはプレイ時間が長めだが、今でもたまにプレイしなおしたくなるおすすめ作品。
これもまた、黒髪ロングの毒舌JKヒロインが出てくる。氷の女王のごとき江崎巴ちゃんと本気で漫才コンビを目指す、熱い青春ラブコメ。ツンデレ巴ちゃんやいろんな意味でスーパーな幼馴染の菜々川かなみとの掛け合いがとても楽しい。
お笑い、という扱いにくそうな題材をうまく料理できる、そんなシナリオライターさんの次回作が気になるところだけれど、サークルのENTRANCE SOFTのページを見ると、悲しいかな更新がはるか昔に停止していた。
もうノベルゲームにほとんど飽きてた頃に刺さったということもあって、個人的に印象深い作品。
ヲサカナソフトの作品
ヲサカナソフトの鬼才Aura911さんが放つシナリオは個性的で、その唯一無二さに魅せられた。
『homeless, the vagabond』
局地的同人ゲーム・オブ・ザ・イヤーの2007年の爆笑部門にも選ばれた『homeless, the vagabond』(通称HTV)は、キャラクター達の独特の掛け合いが魅力的なのもそうだけど、その題材がかなりマニアック。
ギターを演奏して放浪する津田啓を主人公として、二人のヒロインがその放浪に加わるという話。放浪エピソードはライターAuraさんの実体験をもとにしているので、リアリティが違う。
2人のヒロイン小田原塔子と六深菜の立ち絵もAuraさんが描いているが、なかなかに独特のタッチ。しかし物語の後半には、この二人がどうしようもなくかわいく見えてくるという現象が起きる。特に塔子ルートのシナリオは反則級で号泣必至。
初版はあやしいわーるどIIに投稿されたものらしく、それから2度の改版を経ている『homeless, the vagabond』だが、これは第1章で実は第3章まで構想があったらしい。ほんまかいな。
『ブラックオクトウバー』
打って変わって『ブラックオクトウバー』は高校内に学生が勝手に建てた匿名チャットを舞台にした、インターネット黎明期のアングラ感を味わえるスリリングなストーリー。
チャットでのやりとりが現実世界の放火事件を引き起こしてしまい、ログを消すために学校のサーバ室に集まることになり、「ブラックオクトウバー」を合言葉に初めて顔を合わせるチャットメンバー。
そこで起きる衝撃的な展開と、この物語中盤にきて挟まるかっこいいオープニング映像という演出は、控えめに言って天才かという感じ。ひさしぶりにプレイしてみたら動画形式がFlashだったので再生されず泣きそう。
『夏仕舞冬支度』
『夏仕舞冬支度』は、資材部の倉庫を舞台にしたラブストーリー。
ヲサカナソフトは『青酸カリ』という生産管理システムも自作・販売していたこともあり、在庫管理の描写のリアリティがたまらない。物語の節目節目で主人公の白洲権兵衛が一句詠む演出は、ハイソサエティみを感じるし、どうやったらこういう発想にたどり着くのか理解不能。
『エイト・ストーリーズ』からもう10年近く作品を作っていないAura911さんにはまた作ってほしいし、既存作のFlashもmp4とかに置き換えてほしい……
こんなのを書いていたらまたノベルゲームがやってみたくなってきた。というか今さらながらFlashがほんとに死んでしまっているのがショック。
好きだったFlash作品の話もいつか書きたいな。